原寸大
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題名放射線ホルミシス:太田成男日本ミトコンドリア学会理事長が語る
コメント 昨日(12/13)、私の手元に日本抗加齢医学会雑誌の今月号(vol.7 No.6)が届きました。
その74p〜78pには、日本ミトコンドリア学会理事長の太田成男教授(写真)の素晴らしく勉強になる論文が載っています。
皆様にご紹介致します。

放射線ホルミシス
日本医科大学大学院医学研究科加齢科学系専攻 太田成男
Key words: 電離放射線;低線量;ホルミシス;酸化ストレス;寿命
http://shigeo-ohta.com/wordpress/wp-content/uploads/2011/08/111207放射線ホルミシス太田成男.pdf
(1)ホルミシス効果とは
ホルミシス( hormesis )効果とは、生物に対して通常有害な作用を示すものが、微量
であれば逆に良い作用を示す生理的刺激作用のことをいう。ホルミシスは、ホルモンの
語源でもあるギリシャ語のホルメ( horme )に由来し、このホルメの意味は、「刺激する」
であるという ( 英語では、 to excite) 。特に低線量放射線の効果は、放射線ホルミシス効果
( Radiation hormesis )である。なお、民間治療のホメオパチー治療とは無関係である。
放射線ホルミシス効果は、 1978 年、ミズーリ大学のトーマス・ D ・ラッキーが、 20 世
紀初頭から報告された多くの研究者の原著論文から、低線量の放射線による生物の各種
刺激効果を総説の中で紹介し、この時に使用した言葉である(単行本「放射能を怖がる
な ! 」 T.D. ラッキー ( 著 ), 茂木 弘道 ( 翻訳 ) 出版社 : 日新報道 (2011/08) 。)ラッキーに
よれば、低線量の放射線照射は、体のさまざまな活動を活性化するとしている。さらに、
現在の自然放射線では少なすぎ、もっと積極的に放射線を浴びるべきであると主張して
おり、最適な放射線量は年間 1,000 mSv (ミリシーベルト)であるという。また、放射
線ホルミシスの妥当性を支持する論文は、 3,000 以上も発表されているとのことである。
逆に、 400 ページにも及ぶ「電離放射線の生物学的影響 (Health Risks from Exposure to
Low Levels of Ionizing Radiation: BEIR VII-Phase 2 ( BEIR は米国電離放射線の生物影響に
関する委員会) ( 米国科学アカデミー出版、 2005)) では、4ページにわたって放射線ホル
ミシスについて言及しているが、放射線ホルミシス効果は仮説であり仮説が立証されて
いるとは認めていない。ただし、 adaptive response についてはやや寛容であるようだ。
(2)放射線と酸化ストレス:実験動物を用いた実験
いわゆる放射線は、衝突した物質をイオン化するので正確には電離放射線( ionizing
irradiation )とよぶ。生体内では、水が 70% をしめるので、放射線に主に水と反応し、
H 2 0 →・ OH + H + + e- のようにヒドロキシルラジカル(・ OH )を発生する。・ OH ラジ
カルは、その後連鎖反応によって次々とラジカルを生じさせ、生体内分子を酸化する。
タンパク質などの分子は損傷を受けても、代謝回転が速いので酸化の影響も代謝回転と
ともに消失するが、後々まで影響が残るのは遺伝子の損傷である。遺伝子に放射線が直
接損傷を与える直接作用もあるが、確率的には低く、 20 %以下程度とされている。
つまり放射線障害はミトコンドリアから発せられる過剰な酸化状態、つまり酸化ストレスと同義であると考えられる。現在は、適度な酸化ストレスなら健康にプラスである
ことが提唱され、ミトコンドリアへのストレスで、「 mitohormesis =
mitochondria+hormesis 」の用語も提唱されている (1) 。活性酸素は、生体内シグナルとし
て働き、抗酸化酵素を誘導し、酸化ストレスに耐性になることが知られている。
実際、・ OH を消去する水素分子 (H 2 ) を事前に投与すると 95% が死亡する線量である
9000 mSv の放射線を浴びさせても、 80% の照射マウスを生存させることができた( 2 )。
なお、放射線障害を水素によって防御できることは、著者らも確認している( Terasaki et
al., Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2011;301:415-26. )。これらの結果より、放射線障
害は( α 線を除いて)主に活性酸素の害であることがわかる。
最近の本書(アンチ・エイジング医学)でも、 2011 Vol.7 No. 5 で放射線とアンチエイ
ジング特集が組まれ,「低線量放射線によるチオレドキシンの放出」と「低線量放射線
による老化・生活習慣病の抑制の可能性」「低線量全身照射による癌治療」などの優れ
た総説が掲載されており、放射線ホルミシスの効果も記載されている。本稿では、でき
るだけ重複を避けるように努めた。
(3)疫学調査
古くより、ラドン温泉やラジウム温泉などの放射線量の高い温泉には、様々な活性化
効果があるとされてきた。ラドン温泉で有名な三朝温泉地域の 36 年にわたる住民に対
する詳細な研究がある( 3 )。この研究によれば、三朝温泉近くでは、放射性ラドン(気
体)の放射線量 1m 3
あたり 26 Bq (ベクレル)(一日あたり 600 Bq 程度の呼吸)で近く
の地域の 2 倍以上であり、発がん率は近くの地域と比べ、半分以下である(図1)。し
かし、同地区の別の調査では、統計的有意な差は認められなかったとの報告もある。

図1 三朝温泉における住民の発がん率の調査結果(文献3の結果を改変)。

米国ではラドンの濃度は日本よりも高く地域によって大きな差がある。米国人の 90%
は住んでいる 1600 地域から放射性ラドンを計測し、その地域毎の肺癌での死亡率を調べている。肺癌の死亡率が少ないのは、最も放射性ラドンの高い地域であり、むしろラ
ドンの放射線が低い地域の方が有意に肺癌の死亡率が高い。図2に記載されている5
pCi/L は、一日に 4000 Bq の空気を呼吸することに対応する( 4 )。この調査は、喫煙率
の少ない女性を対象としているので、喫煙による肺癌の効果をできるだけ排除している。

図 2 米国の各地域の放射性ラドンの濃度と住民の肺癌での死亡率(Luckey TD. Raiation
hormesis: The good, the bad, and the ugly. Dose response 4 169-190 (2006)の図を改変)

世界では、自然放射線量の高い地域がいくつかあって、少なくとも健康に悪い影響は
なく、傾向としては長寿である。最近の食品安全委員会のレポート
( http://www.fsc.go.jp/sonota/emerg/radio_hyoka_detail.pdf )でも、高線量地帯のインドの
ケララ地方では、累積 500 mSv の被曝でも発がんリスクの上昇はなかったと評価してい
る。
また、台湾では知らずのうちにマンションの鉄材に放射性コバルト -60 が混入し、約
1万人の住民が知らないうちに 20 年にわたって被曝していた事件がある。 1,600 人は年
間 5 mSv 以上を被曝していた。その後の調査では、被曝していた住民には他の地域の住
人よりもはるかに発がんした人が少ないどころか、ほとんど発がんした人が認められな
かったと報告された( 5 )。この結果が信頼できるなら、放射線ホルミシスが観察された
よい例になるはずである。ところが、その後発表された別の論文では、同じ地域での調査で放射線被曝した住民と他の地域の住民を比較するとほとんど有意な差がみとめら
れていない( 6 )。
(4)低線量放射線によってマウスの寿命は延びるか?
動物実験では、低線量の放射線被曝によってマウスの寿命は延びたという報告と延び
なかったという報告がある。最近のマウスの寿命が延びたという報告を見ると、図3に
示すように、最長寿命が延びるのではなく、平均寿命が延びている (7) 。また、この結
果の生存期間はどこから測定した時間なのか不明確であるが、この数字をマウスの年齢
とするなら用いたマウスの平均寿命は平均的なマウスよりも短く、寿命で死亡したとい
うより、おそらく感染症によって死亡するのを放射線は防御したと考えられる。また、
自己免疫疾患のモデルマウスでは低線量放射線の照射によって寿命が延びることが示
されている (8) 。なにか、個体にとって不利益になるような状況下では、放射線ホルメ
シスが働きだすのかもしれない。実際、 SPF で飼育したマウスでは低線量放射線を浴び
させても寿命は延びなかったという (9) 。

図3 低線量放射線を被曝させたマウスの生存(文献7の図を改変)

(5)遺伝子変異によるホルメシス効果の消失
最近では、ショウジョウバエを用いたホルミシス研究結果が報告されている (10) 。シ
ョジョウバエでは様々な遺伝的バックグラウンドをもつ系統が多数分離・維持されてい
る。そこで、様々な遺伝子欠損のショウジョウバエを用いて、放射線の寿命への効果を
調べた。低線量放射線として 400 mSv 、高線量として 30 Sv を照射した。典型的な雄の結果のみを図4に示す。長寿遺伝子 Sir2 の欠損ハエとオートファジー関連の Atg8 欠損
ハエでは低線量で生存の長さが長くなり、ホルメシス効果が増幅された。逆に、がん抑
制因子 p53 欠損ハエ、遺伝子修復酵素 mei-41 欠損ハエ、酸化ストレス防御機構に関連
する Foxo 欠損ハエでは、放射線ホルミシス効果は認められず、逆に放射線による死亡
が早まった。これらの結果は、酸化ストレス防御機構がなく、損傷を受けたハエの遺伝
子が修復されないと早く死ぬというもので、合理的な結果である。また、オートファジ
ーやカロリー制限に関与する遺伝子が欠損すると放射線ホルミシス効果が増大するの
は、通常の状況よりも何らかの不利な状況下であることを示唆している。
遺伝子の background を変えるだけで、低線量の放射線に対する効果が変化すること
は、低線量放射線がある特定の状況ではプラスに働く可能性を示唆している。今後、こ
のような遺伝子の背景や環境の違いにより放射線ホルミシス効果が発揮されるかどう
かを明確にすることによって、ホルミシス効果自体の分子機構も明らかになるだろう。

図4 野生型と変異ショジョウバウの放射線被曝後の生存曲線。図に記載された遺伝子の欠損ハ
エの系統を用いた(文献10の図を改変)

(6) 最後に
私のような酸化ストレスの研究者からは、放射線ホルミシスは素直に受け入れやすい
概念である。前述のように低線量の放射線は害のない程度に活性酸素を生み出し、微量
の活性酸素は生体内シグナルとして機能するからである。本稿をひきうけた時には、放
射線ホルミシスの概念を支持する立場から原稿を書こうと思っていたが、原著論文や総
説を調べれば調べるほど、相反する論文があり、一筋縄ではいかないことがわかってき
た。そのため、本稿では放射線ホルミシスを支持する結果に加え、相反する結果も併記
することにした。しかし、放射線ホルミシスという概念を受け入れ難い人でも
「 radioadaptive response 」という言葉に置き換えると受け入れ易い人も多いようだ。
adaptive response は生命の本質であるからだ。
文献
(1) Ristow M, Zarse K: How increased oxidative stress promotes longevity and metabolic
health: The concept of mitochondrial hormesis (mitohormesis). Exp Gerontol 45, 410-418, 2010
(2) Qian L, Cao F, Cui J, Wang Y, Huang Y, Chuai Y, Zaho L, Jiang H, Cai J: The potential
cardioprotective effects of hydrogen in irradiated mice. J. Radial Res 51, 741-747, 2010
(3) Mifune M, Sobue T, Arimoto H, Komoto Y, Kondo S, Tanooka H: Cancer mortality survey
in a spa area (Misasa, Japan) with a high radon background. Jpn J Cancer Res 83, 1-5, 1992
(4) Cohen BL: Test of the linear-no threshold theory of radiation carcinogenesis for inhaled
radon decay products. Health Phys 68, 157-174, 1995
(5) Chen WL, Luan YC, Shieh MC, Chen ST, Kung HT, Soong KL, Yeh YC, Chou TS, Mong
SH, Wu JT, Sun CP, Deng WP, Wu MF, Shen ML: Effects of cobalt-60 exposure on health of
Taiwan residents suggest new approach needed in radiation protection. Dose Response 5, 63-75,
2006
(6) Hwang SL, Hwang JS, Yang YT, Hsieh WA, Chang TC, Guo HR, Tsai MH, Tang JL, Lin IF,
Chang WP: Estimates of relative risks for cancers in a population after prolonged low-dose-rate
radiation exposure: a follow-up assessment from 1983 to 2005. Radiat Res 170, 143-148, 2008
(7) Caratero A, Courtade M, Bonnet L, Planel H, Caratero C: Effect of a continuous gamma
irradiation at a very low dose on the life span of mice. Gerontology 44, 272-276, 1998
(8) Ina Y, Sakai K: Prolongation of life span associated with immunological modification by
chronic low-dose-rate irradiation in MRL-lpr/lpr mice. Radiat Res 161, 168-173, 2004 (9) Tanaka S, Tanaka IB 3rd, Sasagawa S, Ichinohe K, Takabatake T, Matsushita S, Matsumoto
T, Otsu H, Sato F: No lengthening of life span in mice continuously exposed to gamma rays at
very low dose rates. Radiat Res 160, 376-379, 2003
(10) Moskalev AA, Plyusnina EN, Shaposhnikov MV: Radiation hormesis and radioadaptive
response in Drosophila melanogaster flies with different genetic backgrounds: the role of
cellular stress-resistance mechanisms. Biogerontology 12, 253-263, 2011



〜本日の関連記事〜
ミトホルミーシス仮説ふたたび(2011/4/21)
http://bbs11.aimix-z.com/mtpt.cgi?room=ppkorori&mode=view&no=69

『太田成男のちょっと一言』でミトコンドリアを学ぶ(2011/10/8)
http://bbs11.aimix-z.com/mtpt.cgi?room=ppkorori&mode=view&no=220

『ミトコンドリア・アウトブレーク』:最近大忙しの太田成男先生(2011/10/16)
http://bbs11.aimix-z.com/mtpt.cgi?room=ppkorori&mode=view&no=235


〜本日の参考図書〜
『ミトコンドリアが進化を決めた』 [単行本]
ニック・レーン (著)
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%9F%E3%83%88%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%81%8C%E9%80%B2%E5%8C%96%E3%82%92%E6%B1%BA%E3%82%81%E3%81%9F-%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%B3/dp/4622073404/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1324354316&sr=1-1

4 人中、4人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。

5つ星のうち 5.0

細胞内の小宇宙、開きかけた秘密の小箱、陰の支配者、死の天使、じゃじゃ馬娘:そいつはミトコンドリア。彼女との知的冒険旅行へ貴方をご招待!?, 2008/10/16

By tsunco "CR・IF" (近畿地方・時々首都圏・たまに国外)
(トップ500レビュアー)

レビュー対象商品: ミトコンドリアが進化を決めた (単行本)

 ミトコンドリアはいわば、細胞内の小宇宙:超々小型高性能発電所である。酸素という超危険物を扱うエネルギー・プラントなのである。細胞の生命活動に必要なエネルギー(ATP)の供給源であり、生きていく上で絶対に無くてはならない細胞内小器官であるが、その一方で、活性酸素種等のフリーラジカルを大量に発生させる、困った面も持ち合わせている。更に、ミトコンドリアは単なる発電所ではない。我々真核生物に両性が在るのも(有性生殖・片親遺伝)、生きるも(エネルギー供給)、死ぬも(アポトーシス)、すべて彼女が支配していると著者はいう。副題の”Power,Sex,Suicide”(原著ではこれが本タイトル)とは正にこの事を指す。そればかりか、真核生物として進化したのも、また生活習慣病も発ガンも老化も、全て彼女が決めたのであるとのご主張である。彼女はいわば、全知全能の『陰の支配者』である。そう、このご本はミトコンドリアに関する壮大な最新統一理論への招待なのである。

 15〜20億年前の太古の昔、我々のご先祖の原始的生命体(アーケア:メタン生成古細菌)が、その体内にミトコンドリア(アルファ・プロテオバクテリア)を取り込んだ事により、我々のご先祖には真核生物と呼ばれる複雑で多細胞の大型生命体(筆者は「戦艦」になったと表現している。)へ進化する道が拓けたのである。その代わり、進化上の「ある宿命」を負うことになった。それが活性酸素・フリーラジカルの発生とそれによる酸化である。ミトコンドリアは機嫌が悪い(電子伝達系不全という)と、辺り構わず危険なフリーラジカルを撒き散らす、とんだ「じゃじゃ馬娘」でもあるのだ。この大量に漏出したフリーラジカルが老化が加速し、結果として、ありとあらゆる病気、即ち、アルツハイマー・パーキンソン病などの神経変性疾患、糖尿病・動脈硬化などの生活習慣病、癌・悪性腫瘍などが起こって来るのだと筆者は言う。
 
 そこで、病気にならずに長生きしたければ、ミトコンドリアからのフリーラジカルの漏出を最小限に食い止めることが肝要であると筆者は強調する。そう、ミトコンドリアの高効率化である。これを”Efficient Mitochondria”という。即ち、より多くのATPを産生しつつ、活性酸素の産生は逆に少ないミトコンドリアのことである。筆者によれば、健康長寿を目指すには、『ミトコンドリアよ。分裂せよ。』と叫ぶ事だそうだ。その心は、身体活動や精神活動を若い時から歳を取ってからも保ち、ミトコンドリアを存分に働かせる。このエネルギー需要がミトコンドリアを分裂させ、ミトコンドリアに予備力と高効率化をもたらすというのだ。

 筆者は、『ありとあらゆる老化性疾患にミトコンドリア機能異常が関与しているとなると、個別の病気の解析に一々対応していても仕方がない』と仰る。そして『個々にやっても、今まで意味のある突破口(ブレイクスルー)を1つも切り開いていないし、これからも上手く行かないであろう』と予言する。終には『今の(西洋)医学はどうも間違った方向に向かっている様だ』と警告する。実に素晴らしい。全く同感である。間違っているからこそ、アンチテーゼとして、統合医療とか補完代替医療が登場してきた訳だ。アルツハイマー病の遺伝子変異がどうだとか、パーキンソン病の方はどうだとか、下流で個別にアプローチしても仕方がないのだ。早い内から一番上流を制する事が大切である。もし、ここを制御できれば、老化関連諸疾患は一気に解決、そう一網打尽にできるかも知れないのだ。それこそ、大ブレイクスルーが訪れるに違いない。それにしても、筆者の見識の高さには驚くばかりである。

 本著で唯一異論があるとすれば、エピローグの章で、『脂肪の多い西洋型の食事は安静時に発生するフリーラジカルを増やし、特にアフリカ系人種が心臓病や糖尿病になり易くなる』としている点である。問題は脂肪の取り過ぎではないのだ。フリーラジカルの過剰漏出をもたらすのは、実は、炭水化物の方なのだ。1万年前に穀物食を始めた現生人類は、過剰に発生した活性酸素・フリーラジカルの消去・スカベンジに四苦八苦し、「じゃじゃ馬馴らし」に本当に難儀しているのである。この地球上で何億人もが、炭水化物の摂りすぎによるミトコンドリアの機能不全・効率低下、それからもたらされる諸病、例えばメタボや糖尿病、神経変性疾患、癌等に悶え苦しみ、老化加速の罠に嵌っているのである。もし貴方が健康でいたければ、長生きしたければ、いつも彼女の存在を意識し、上手く付き合う事(フリーラジカルの漏出抑制)に全力を傾けるべきである。兎にも角にも、それには「食事に気を付ける」ことである。食べるものの種類、食べる回数・間隔・タイミング、最後に食べる量である(CR・IF)。
 
 このご本は少々お値段が張る上、500頁近い大冊でもあり、しかも専門用語に溢れているのである。巻末に用語集が附いてはいるが、ほんの申し訳程度。また、大学の理系学部のセミナーの教材として使用されている位の代物だそうで、一般の方には少し難しい内容かもしれない。しかし、知的好奇心が旺盛で、刺激を受けたい方は一度チャレンジされては如何であろうか。少々苦労しても、苦労のし甲斐があるご本である。生命に対する深い洞察と最新の思想・世界観を得られる筈である。生物学、医学、生理学に関心のある人や学生さんのみならず、哲学、人類学、社会学など関心が文系の方にも、そしてメタボや糖尿病の患者さん、健康長寿を目指しておられる方にお勧めできる、実にエキサイティングな意欲作である。尚、原著は英国Economist誌による”Book of the Year 2005”の栄冠を獲得しているとの事。英語に自信のある方はそちらにも挑戦されては如何であろうか。
原著はこちら。

Power, Sex, Suicide: Mitochondria and the Meaning of Life
http://www.amazon.co.jp/Power-Sex-Suicide-Mitochondria-Meaning/dp/0199205647/ref=sr_1_cc_1?s=books&ie=UTF8&qid=1324354534&sr=1-1-catcorr

Mitochondria are tiny structures located inside our cells that carry out the essential task of producing energy for the cell. They are found in all complex living things, and in that sense, they are fundamental for driving complex life on the planet. But there is much more to them than that. Mitochondria have their own DNA, with their own small collection of genes, separate from those in the cell nucleus. It is thought that they were once bacteria living independent lives. Their enslavement within the larger cell was a turning point in the evolution of life, enabling the development of complex organisms and, closely related, the origin of two sexes. Unlike the DNA in the nucleus, mitochondrial DNA is passed down exclusively (or almost exclusively) via the female line. That's why it has been used by some researchers to trace human ancestry daughter-to-mother, to 'Mitochondrial Eve'. Mitochondria give us important information about our evolutionary history. And that's not all. Mitochondrial genes mutate much faster than those in the nucleus because of the free radicals produced in their energy-generating role. This high mutation rate lies behind our ageing and certain congenital diseases. The latest research suggests that mitochondria play a key role in degenerative diseases such as cancer, through their involvement in precipitating cell suicide. Mitochondria, then, are pivotal in power, sex, and suicide. In this fascinating and thought-provoking book, Nick Lane brings together the latest research findings in this exciting field to show how our growing understanding of mitochondria is shedding light on how complex life evolved, why sex arose (why don't we just bud?), and why we age and die. This understanding is of fundamental importance, both in understanding how we and all other complex life came to be, but also in order to be able to control our own illnesses, and delay our degeneration and death. 'An extraordinary account of groundbreaking modern science... The book abounds with interesting and important ideas.' Mark Ridley, Department of Zoology, University of Oxford
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